大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

宮崎家庭裁判所都城支部 昭和48年(少)419号 決定 1974年6月07日

少年 N・I(昭三三・一一・一九生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

押収してある切出し小刃一丁(昭和四九年押第五号の一)を被害者不詳に還付する。

理由

(罪となるべき事実ないし触法事実)

少年は昭和四六年四月都城市立○○中学校へ入学したが、同四八年九月同市立○○中学校へ転入し、同四九年三月同中学校を卒業し、その後定職につくことなく無為徒食しているものであるが、

1  同市立○○○中学校三年生A、同Bと共謀のうえ、昭和四八年八月二九日午後二時三〇分頃、都城市○○町○○神社公園西側道路上において、偶々付近の公衆電話ボックスで通話中の同市立△△中学校三年生○部○二(一五歳)と遭遇するや同人の言語態度が横柄だといんねんをつけ同人を同所付近の路上に連行し、交々同人の顔面などを素手で殴打するなどの暴行を加え、よつて同人に対し治療約一〇日間を要する顔面打撲傷の傷害を負わせ、

2  ○○中学校三年生C、同D、同E、同Fと共謀のうえ、以前右C、Dの両名を恐喝したことがあり少年をいつか殴ると公言している旨聞き及び快く思つていなかつた△△中学校三年生○屋○郎(一四歳)に対し報復することを企て、昭和四八年九月二九日午後六時頃右○屋を都城市○○町××街区×号○○中学校美術室に連行し、同所において、同人に対し少年が右手拳で腹部、右肘で背部を数回殴打、左膝で腹部を蹴りつけ、さらに木製椅子を左腕に投げつけ、Cが両手拳で顔面、右手拳で腹部を数回殴打し、右Dが右手拳で胸部を数回殴打し、右Eが右膝で腹部、右手拳で背部を数回殴打し、右Fが右手拳で顔面を一回殴打する暴行を加え、よつて右○屋に対し加療約二週間を要する全身打撲傷の傷害を負わせ、

3  同年一〇月一〇日午後二時頃都城市○○町××街区×号○○体育館前路上において偶々出会つた△△中学校三年生○浜○(一五歳)に対し態度が生意気だといんねんをつけて同体育館北側軒下に連れ込み同所においていきなり素手で同人の腹部、背部を数回殴打する暴行を加え、

4  同月二一日午後五時三〇分頃都城市○○町×丁目××××番地×○○保育所において△△中学校三年生○永○春(一四歳)同○行○二(一五歳)の両名に対し俺の悪口を言つたといんねんをつけ、いきなり右○永の腹部、右肩を素手で数回殴打し、更に右○行の腹部、右肩、顔面、背部を一〇数回殴打或いは足蹴りする暴行を加え、

5  同年一二月一六日午後五時頃都城市○○町○○○付近の道路上において所有者不詳が落した切出ナイフを発見し、これを自己の用に供する目的で拾い取つて横領し、

6  業務その他正当な理由がないのに同月一七日午前九時二五分頃都城市○○町××街区×市立○○中学校において刃体の長さが六センチメートルを越える刃物(刃渡り八センチメートルの切出しナイフ-同四九年押第五号の一)一丁を携帯し

7  同四九年一月二五日午後四時三〇分頃登校中下級生の○元○樹(一四歳)が欠礼したことに立腹し、下校中の同人を都城市○○町××街区××号付近の空屋二階に連れ込み、同所において、いきなり付近にあつた棒切れで同人の顔面を一回殴打し、更に背部などを数回足蹴りにするなどの暴行を加え、よつて同人に対し治療約一〇日間を要する右顎部挫傷の傷害を負わせ、

8  同四七年九月七日から同四九年五月七日の間前後七五回にわたり別表恐喝行為一覧表(編略)記載のとおり都城市○○町×××番地○○中学生○村○文方外数ヶ所において、同人に対し、口頭又は電話で「金をやれ、やらんとなぐるぞ」又は「考えがあるぞ」と申し向け金員の交付方を要求し、これに応じないときは同人の身体にいかなる危害を加えるかもしれないような気勢を示して脅迫し、同人を畏怖させ、よつて同人方外数ヶ所において同人をして少年に対し直接又は少年の使者を介し現金合計九二万四、四一〇円を交付させ、もつて恐喝罪の刑罰法令に触れる行為(右別表番号一~七)又は恐喝(同八~七五)をなし、

9  同四九年五月一七日午後一一時頃右○村○文に対し、電話で「明日の朝一〇万円○○小学校の記念碑の後にうめておけ」と申し向け金員の交付を要求し、これに応じなければ同人の身体にどのような危害を加えるかもしれないような気勢を示して脅迫し、同人を畏怖させたが、同人が金員の都合が出来ず同月一八日自殺をはかつたためその目的を遂げなかつたものである。

(法令の適用)

罪となるべき事実1、2は刑法二〇四条、六〇条に、同3、4は同法二〇八条に、同5は同法二五四条、同6は銃砲刀剣類所持等取締法二二条、三二条二号に、同7は刑法二〇四条に、同8のうち別表番号八~七五は同法二四九条一項に、同9は同法二五〇条、二四九条一項にそれぞれ該当し、同8のうち別表番号一~七は同法二四九条一項に触れる。

(処分の理由)

1  少年の生活歴

少年は昭和三三年一一月一九日都城市○○町において父N・T(S一〇・一二・七生)母N・Y子(S一〇・九・一九生)の第二子として出生し同四〇年四月都城市立△△小学校に入学し小学校時代をずごしたが、学習成績は普通だが学習態度になげやり的であきらめの早いところがあり性格及び行動面では快活明朗だが自己中心的且我ままで自己のいいなりにならないとすぐ不機嫌になり、下級生と交遊し、これをいじめることが多かつたといわれる。

同四六年三月同小学校を卒業し、同年四月都城市立○○中学校に入学したが学習態度は表面的で学習成績は能力に比してほとんど全般に振わず、短気ですぐ暴力に訴えるところがあり、自他の不行跡を極力かばう傾向があつたといわれ、入学当初、出身小学校の下級生数名から金銭をまきあげ、これを父から叱責され家出したことから児童相談所に一時保護され(同四六年六月一五日~同月二六日)その後は級友相手の喧嘩が二回(同四七年)程度で表面的には立直つてきたと見られていたが、その実二年生の秋(同年九月)以降この度発覚に至るまで本件一連の恐喝行為が繰り返されていた。三年生に進級後粗暴行為が表面化しだし、下級生を殴る(同四八年四月)下級生をおどして金銭をまきあげる(同年七月)などし、父母の転居に伴い、同年九月から都城市立○○中学校に転校したが、その前後から本件一連の暴行、傷害等の非行が繰返され、これがため同四九年三月同中学校を卒業するまでの間に二回児相に一時保護(同四八年一一月五日~同月一九日、同四九年一月二九日~同年二月二三日)された。

同四九年三月同中学校卒業とともに一応は集団就職により就職先の愛知県の会社に赴いたが稼働意欲もないまま翌日会社を飛び出し都城市に舞戻りしばらくぶらぶらした後少年が崇める年長の素行不良少年○守○郎と大阪の鉄工所で一旬月前後稼働してみたものの長続きせず再び都城市に戻りろくに家庭に寄り付かず同市内を徒遊していた。

2  家庭状況

少年の父母は都城市○○町の開拓地で農業に従事し小作田一五アール、自作畑二八〇アールを耕作し親子四人暮しの生活をしていたが次第に農業経営に行詰り同四三年ころ小作田を返還し、同四六年ころ畑の耕作は母に委ね父はダンプの運転手として稼働しだし、同四八年八月農業を放棄し家屋、畑等を売却し都城市○○町の新興住宅地にローンで新築家屋を買い求め転居し、そのころから母も工員として稼働するようになつたが、家屋、自動車、カラーテレビ等の多額の月賦の支払におわれ余裕のない生活を送つている。なお少年の姉は同四八年三月中学校卒業とともに愛知県の紡績会社に就職し定時制高校に通学しながら稼働している。

このようなことから父母の関心はもつぱら家庭の経済生活の向上に向けられ少年は放任され従つて少年の教育に対する父母の関心も低く学校参観、学校との諸会合への出席は極めて少なかつたという。

3  少年の資質、性格

少年の知能は準普通域で精神障害も特に認められないが放任的家庭環境に禍され社会性の未熟が顕著で周囲に対する自己の勝手気ままな振舞に無神経無頼着な性格が形成される一方学校ことに中学校における生活に不適応を来し学習態度もなげやり的且表面的で自己の能力を十全に発揮し切れないがためほとんど全般的に成績不振に陥り、よつてもたらされた劣等感が基盤となりこれに前記のような無神経無頓着な性格が預つて無自覚的にもせよ次第に自らをアウトサイダー化させることにより自己の再生を目ざし腕力をたのんで周囲に一目おかせる威圧感を背景にし、これにきまえよく物を与えたりおごつたり、仲間のために一肌脱ぐが如き「人情」味=かつこうのよさを加味させたいわばチンピラヤクザ気取りの人格を形成するに至つたものと思われる。

そうして社会的自立心が未成熟なため中学校卒業に至るも未だ自己の適職を自覚し得ていないのみならずそもそも稼働意欲自体が極めて稀薄である。

4  本件非行の特質

以上をもととし本件各非行について検討するといずれも前記のとおりいわばチンピラヤクザ気取りの少年がその面子の維持保全のためないし気取りからなした非行と認められそこに本件非行の特質を見ることができる。

即ち本件一連の暴行、傷害非行は被害者の言動などによりそのような少年の面子が傷けられたと受取る被害感に動機付けられて発現されたものと考えられるし、占有離脱物横領、銃刀法違反の非行にしても少年がたまたま拾つた切出しナイフの柄に「○○親分」と書き込んで学校に携帯して行つているものでそこに少年の気取りが看取される。恐喝、同未遂非行は約一年九ヶ月の長期間に亘り間断なしに同一被害少年(下級生)から家業の電器機具販売の売上代金を持出させておどし取り、その被害額も確認されただけ九〇万円余にのぼる高額であり、一回の被害金額も回を追つて多額になり近くは一〇万円単位にまでエスカレートし遂に進退極つた被害少年を自殺におい込むに至つて(幸い未遂に終つた)ようやく明るみに出たものであつてその大胆且執拗な非行態様にはまことに驚くべきものがあるが、おどし取つた現金の使途をみるとこれを少年自身の身の回り品などの購入に費消していることもさることながらその多くは少年の取巻きのために食事をおごつたり物を買い与える資金として費消していることが看取されることに照すとこれも又そのような少年の面目をほどこすための資金稼ぎ的な非行といえよう。

5  結論

以上を要するに少年が健全な社会人として保護育成されるためには少年に社会性の成熟を図ると共に無用な劣等感を払拭させ、少年に適切な社会的役割を自覚させ自信の回復を図ることがなによりも肝要と思料されるところ、これを社会内処遇によつて期することは少年を取巻く家庭的社会的条件を検討するとき著しく困難なことと考えられかえつて少年を再非行に追いやる惧れが十分あると認められるので、初回の年少少年ではあるが少年が義務教育課程を修了していることも考慮しこの際少年を中等少年院に収容し保護の万全を期するのが最も妥当な措置であると思料する。

(むすび)

よつて少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項、少年院法二条三項を適用して少年を中等少年院に送致することとし、押収してある切出し小刀一丁(昭和四九年押第五号の一)は前記5の罪の臓物で被害者に還付すべき理由が明らかであるから少年法一五条二項により準用される刑事訴訟法三四七条一項により被害者不詳に還付することとし主文のとおり決定する。

(裁判官 失崎正彦)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例